日本語TechnologyApril 8, 2026

中村 大輔

RAPID OBC | BIMJAPAN Inc.

EVバッテリー、JITの悪夢:深夜のNRT、失われた1時間半

愛知県のEV工場が停止寸前。原因は、わずか数キロ先の部品が税関で足止めされていたことだった。真夜中のNRTで何が起きていたのか。

午前3時17分、電話が鳴った。けたたましい着信音に飛び起き、画面を見ると見慣れない番号が表示されている。こんな時間に一体誰だろうか。恐る恐る出てみると、相手は愛知県の自動車部品メーカーのロジスティクス担当者だった。

「すみません、こんな時間に。大変なことになりました。EVバッテリーのセルが、NRTで止まっています。」

彼の声は焦燥に満ちていた。聞けば、その日の朝には愛知県のEV組立ラインに到着し、生産に投入されるはずの重要部品だという。いわゆるジャストインタイム、それも極限まで在庫を削った運用だったのだろう。NRTに到着したのは前日の夕方、通常であれば夜間のうちに税関を通過し、早朝には国内輸送のトラックに積み込まれているはずだった。

「何が原因ですか?」と尋ねると、彼は言葉を詰まらせた。「それが…まだはっきりしないんです。インボイスとパッキングリストに不一致があるとか、ないとか…」

深夜の空港税関。あの独特の蛍光灯の光景が目に浮かぶ。普段は静まり返っているはずの場所で、今まさに何人かの担当者がトラブルシューティングに追われているのだろう。EVバッテリーのセルは危険物であり、通常の貨物よりもはるかに厳格な書類審査が求められる。ちょっとした記載ミスでも、通関はストップしてしまう。

私はすぐに状況を把握し、いくつかの連絡先に電話を入れ始めた。この手の緊急事態では、情報が錯綜しがちだ。まずは正確な情報を掴むことが最優先だった。税関、フォワーダー、国内輸送業者、そしてもちろん、荷主である愛知県のメーカー。それぞれが自分の持ち場で最善を尽くそうとしているものの、連携がうまくいっていないようだった。

税関で足止めされた貨物パレット

数回のやり取りの後、ようやく原因が判明した。輸入申告書に記載された品目コードが、実際の貨物の特性とわずかに異なっていたのだ。国際的な統一システム(HSコード)は非常に細かく分類されており、特に新興技術であるEVバッテリー関連部品は、その解釈が難しい場合がある。今回は、特定の化学物質の含有量に関する記述が、税関のデータベースと完全に一致しなかったという。

些細なことのように聞こえるかもしれないが、これは深刻な問題だった。EVバッテリーは発火の危険性もあるため、税関は非常に慎重だ。一度疑義が生じれば、詳細な調査が入るのは避けられない。しかも、今回は深夜。担当者の数も限られている。

午前4時半を過ぎた頃、愛知県の担当者から再び電話があった。「通関、通りました!今、トラックに積み込み中です!」彼の声は安堵に満ちていた。しかし、その安堵の裏には、すでに失われた時間が横たわっていた。

NRTから愛知県の工場までは、通常であれば数時間の陸送が必要だ。通関の遅れにより、トラックの出発は予定より1時間半遅れた。その1時間半が、工場にどれほどの影響を与えるか。EVの組立ラインは、秒単位で動いている。部品の到着が遅れれば、ライン全体が停止する可能性もあった。

幸いにも、この時はライン停止という最悪の事態は免れた。しかし、それは工場側が予備のバッファを持っていたか、あるいは他の工程で調整ができたからに過ぎない。綱渡りのような状況だったことは間違いない。今回の件で、彼らは「JITの限界」を痛感したことだろう。

この一件から学べることは多い。まず、危険物や新技術関連の貨物においては、書類の正確性が何よりも重要だ。HSコードの解釈一つで、通関が滞る可能性がある。事前に税関や専門家との十分な連携を取り、疑義が生じないよう準備を徹底すべきだ。

次に、サプライチェーン全体のリスク管理の重要性である。JITは効率的だが、今回のような予期せぬ事態には脆弱だ。どこかで予備の在庫を持つか、あるいは緊急時の代替輸送手段を確保しておくなど、リスクヘッジの戦略が必要となる。例えば、RAPID OBCのような緊急輸送サービスを事前に契約しておくことも、選択肢の一つになるだろう。彼らはこのような状況で、迅速に動ける体制を整えていると聞く。

深夜の空港ターミナル、貨物エリア

そして、情報共有の徹底だ。問題発生時、関係者間の情報がスムーズに伝わらないと、解決までの時間が無駄に長引く。誰が、いつ、誰に、何を伝えるのか。緊急時のコミュニケーションプロトコルを確立しておくべきだろう。深夜のNRTで、担当者が個々に奮闘するのではなく、全体で状況を把握し、最適な手を打てるような仕組みが求められる。

この一件は、物流が単なる「モノを運ぶ」行為ではないことを改めて教えてくれた。それは、情報とリスク、そして人間同士の連携が複雑に絡み合う、生きたシステムなのだ。特にEV産業のような急速に進化する分野では、過去の常識が通用しない場面も増えてくる。常に学び、変化に対応していく姿勢が、これからの物流には不可欠だ。

SupplyChainLogisticsEVCustomsJustInTime